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読後感想 山口佳延写生風景 絵と文 建築家・山口佳延 |
イタリアの町並ーバリ
旧ユーゴスラヴィアの町・アドリア海の真珠と言われたドブロニークから,船でイタリヤの港町バリに渡ったのは、三十年前のことだった。バリ港の岸壁に横付けになったのは、陽も暮れかかった頃だったように憶えている。安宿を捜すべく重いザックを背にバリの裏町をトボトボと歩いた。明日は元旦、日本風に言えば大晦日だった。
そうこうする裡に、辺りは暗くなり夜露がラングレイーのジーンズをシットリと濡らした。既に安宿に辿り着けるのは諦めていた。歩く途々、野宿出来そうな場所を物色していた。人家の窓からもれるか細い明かりに吸い寄せられるように、とある家の庭先にフラフラと入っていった。開かれたドアーの向こうに、一家団欒の華やいだ姿が見えた。
「一晩泊めてくれないでしょうか」
そんなことを、一家の主とおぼしき男に向かって、イタリヤ語・英語まじりの訳のわからん言葉を身振り手振りを交えて話した。バリでは見かけぬ顔中ヒゲだらけの東洋人に男は躊躇いもなく、
「ダメダメ・・・・・」
そんな意味のことを手を横に振りながら言った。
やむを得ず暗い闇の中に戻り、物色しておいた2階建ての工事現場に向かった。コンクリートで囲まれた1階の小部屋は冷え冷えとしていた。けれども夜露に当たらないだけでも有り難い、とその時は思った。
ザックから取り出した寝袋を新聞紙を敷きならべた上に投げ出し、一晩のベッドを作った。
午前0時、突然けたたましい音が静寂を破った。新年を祝う爆竹の音だ。生きるのに精一杯の私は新年とは無縁、いつの間にか深淵へと引き込まれていった。翌朝は清々しい空気が流れ華やいだ気分になった。
朝と言えば当然のことながら生理現象がある。辺りを見回したところ便所はない。一晩お世話になっておきながら、現場監督には申し訳なかったが、工事現場の片隅で雉を撃った。(この意味は山男に聞くべし)
その足でアドリア海沿いを南下する列車に乗った。以前より訪れたいと思っていたアルベロベロ集落に行くつもりだった。
バリからアルベロベロへの電車、それは一両だか二両連結だけの可愛らしい電車だった。車内には空いている席が二三席あった。車内に足を踏み入れるなり、見慣れぬ東洋人に対し一斉に視線を浴びた。
車内を見回すと、進行方向左側、年寄り三人が腰掛けていたボックス席に一つ席が空いていた。通路側に座っていた老人に、
「ここはあいていますか・・・」
掌を空いている席に向け、英語で訊いた。
「シーシー・・・」
老人は、眼に人の良さそうな色を滲ませ頷いた。
「この電車はアルベロベロに行きますか・・・」
私の対面に座っていた老人は、如何にもイタリヤの田舎の人らしい実直そうな表情を俄に崩し、
「イザベラ・・イザベラ・・・」
大声を張り上げ後を振り返った。老人の視線の先に、年の頃はまだ中学生位の可愛らしい女子の笑顔があった。女は眼はパッチリとし、抜けるような白い肌を持ち、自分が美人であることに気がついていない、初々しい輝きを放っていた。
老人はこっちに来いと云わんばかりに手招きし、女を呼んだ。女は隣のボックスの空いた席にいそいそと身を移した。老人は英語は話せないが、女は英語を勉強しているらしい。
女の顔には、普段の成果を此処で試してみようといった表情が見て取れた。けれども私も英語はそれほど自慢出来る方でもない。女はこの時とばかり、日頃の成果を披露に掛かった。
「この人・・・アルベロベロに行くそうだ・・・」
老人は私と女の顔を代わる代わる見ながらいった。
「今日は何処に泊まるんですか」
老人と女はロトンダ町手前の駅で降りると言っていた。その顔には良かったら自分の家に泊まったらどうか、そんな表情が見て取れた。こんな時には何時も全ての人が、今自分が考えていることを思っている、と都合の良い勝手な考えをしてしまう。
「ロトンダの手前の町に泊まろうと思っています。明後日アルベロベロに行くつもりです。翌日ロトンダに行くつもりです」
「ロトンダには何時頃きますか」
女はロトンダで待ち、町を案内してくれる積もりらしい表情だった。これ又勝手な解釈かもしれない。 つづく・・・
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