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読後感想 山口佳延写生風景 絵と文 建築家・山口佳延 |
アフガニスタン-光と影・町並-
ペシャワールから国境へ-
パキスタンペシャワールをあっという間に通りすぎた。予定ではガンダーラ文明の宝庫と云われるペシャワール地方でアレキサンダー大王が遺していった、ギリシャ文明に触れる積もりだった。 ところが、バス停に待ち受けていた馬車に、如何にも商人風の馭者の客引きの勧誘でわけの解らぬまま乗った。馬車の乗客はアフガニスタンを目指す若者ばかり四人だった。シャンシャンシャン・・・パカパカ・・・馬蹄の打ち鳴ならす音が心地よい響きを放つ。
右も左も解らぬ町、何処に連れて行かれるのかも解らない。私の拙い英語では馭者がなにを云っているのかさえ定かではない。同乗の外国人は旅慣れているのか余裕ある表情だ。一抹の不安感を抱いていたが、彼等の慣れた様子に直にそれも拭い去った。 ゆったりとした町中を抜け、馬車はとある白壁で囲まれた建物の前で停まった。道路面より高い処に建つ建物の周りは小暗い林で囲まれていた。馭者に従いて我々五人は建物の中庭に通ずる階段を上がった。一体何故にこの建物に入って行くのか、半信半疑だった。 「アフガニスタン領事館が開くまでこのホテルで仮眠して待つように・・・。後で迎えにくるから・・・」
流暢なのか早口なのか、馭者は後に従いて歩く五人を振り返って云った。私は馭者がなんと云ったのか解らない。外国人四人は余裕ある顔付きだ。まあ仲間が一緒だから大丈夫だろう。早朝故にアフガニスタン領事館が開くのを待つのである。 馬車、仮眠所、ビザがセットになり、異国で土地勘もなく慣れない者にとっては有り難いシステムだ。訳の解らぬまま幾人かでシエアードルームに入った。 慌ただしくセットに乗っかりほっと一息ついた。落ち着いてみれば、いよいよアフガニスタン入国、豆粒のような人間がネパール、インド、パキスタンとインド亜大陸をバス、馬車、力車を乗り継ぎ、地べたを這ってきたものだ、と感慨を新たにした。 三時間後、シエアードルームのごつい木扉をこつこつと叩く音がした。暗い部屋、分厚い板を横張りに張った扉を開けた。戸の隙間から明るい陽が差し込み、件の馭者が澄んだ眼に商才に長けた色を滲ませ、中を覗いていた。 「時間だからそろそろ仕度を・・・」 そんなような意味のことを云った。
再び外国人四人と共に馬車の荷台に乗った。馭者は両手に馬の手綱を持ち、はっと声を発し手綱を揺らし馬の頬を叩いた。シャンシャン・・・パカパカ・・・、リズミカルな音を心地よい気分で聴いていた。 程なくペシャワールのアフガニスタン領事館に着いた。 狭い受付には、既に数人のビザ申請者が書類に向かっていたり、カウンターの中の担当者に話しかけていた。脳裡の片隅で不安が過ぎった。アジア大陸を陸路で横断するとき、特に国境を越える時がそうだ。無事に国境を通過出来るだろうか、入国を拒否されたら・・・、と考えてしまう。ビザの発給を拒絶されたら・・・。拒絶されたらパキスタンイスラマバードからイランテヘランに飛ぶ腹は決めていた。なんせ顔中髭だらけの胡散臭い格好の日本人、当時は日本赤軍が世界を股に掛けテロ活動の真っ最中の時期だった。
ビザ発給には、二三日かかるものと覚悟していたが、その場で数十分待つだけでビザはおりた。余りにスムーズにことが運び過ぎ拍子抜けしたほどだ。
申請が終わり再び馬車に揺られ、アフガニスタンとの国境、トルカムへのバス停に向かった。トコロテン式にボーダーを目指す。ペシャワールには後髪をひかれた。ガンダーラ文明に触れずにパキスタンを後にして良いのだろうか。今になって、あの時ペシャワールに一週間滞在してガンダーラ文明の彫刻、遺跡を探索し、スケッチをしていたらどんなに素晴らしかっただろうか、と悔やんでいる。 もともとユーラシア大陸を陸路で横断するつもりになったのはイランの古都イスファハンの華麗なブルーモスクを訪れるためだった。そう考えればペシャワールを通過してしまうのもやむを得ないことかもしれない。 バスが発ち暫くは車窓には、一面に果樹園の緑海が広がっていた。国境に近ずくに連れ白茶けた風景が果てしなく広がり不毛の大地を思わせる。
パキスタン側の国境の検問は比較的容易であった。何処の国でも出国は楽だ。胡散臭い連中には、早いとこ消えて貰いたいのが国の本音だろう。パキスタン側のカスタム、ポリス、イミグレイションをスムーズに通過。踏切にあるような開かれた大きな遮断機を歩いて潜り国境緩衝地帯に入った。緩衝地帯はかなり長い。国境の砂漠をリュックを背負い、遙か向こうに見えるアフガニスタン側遮断機に向かって、ひとり歩き始めた。 遮断機を潜りアフガニスタンに入国した。正式にはカスタム、ポリス、イミグレイションのチェックを受けていないためまだだが・・・。 つづく
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